季節ごとの風の色

本編の前にお知らせです。

「とまとの呟き」の姉妹版・小説を書いています。

「とまと文学部」で今は「裸の王子様」という短編を書いています。

tomatoma-tomato77.hatenablog.jp

バナーの文字「とまと文学部」をクリックすると小説のページに飛べますよ。

よろしくお願いします

 

~ここから本編~

 

今日の札幌、雨が降り寒いくらいです。

雨が降るたびごとに秋が近づいてくるんですよね。

 

雨も季節の移ろいを表すものですが、季節の移り変わりを表すものは風です。

風の匂いが違ってくる時、季節はその次の季節に移り変わっていきます。

 

風の匂いと季節の移ろいと言えば、父が死んだ時のことを思い出します。

父はお盆が終わってすぐの頃に死んでしまいました。

 

数年以上、癌の治療をしていましたから、死んだ時は正直ホッとしました。

手術を受けて障害が残る体になっていて、苦しい治療から解放されたと思うとホッとしました。

 

北海道はお盆が過ぎれば夏の終わりです。

一気に秋らしくなりますね。

 

季節が移り変わる時、人間も自然の一部ですから生まれたり死んだり、変化があるものです。

 

お盆が過ぎれば北海道は秋。

父はそういう時に死にました。

 

父が死んだ日、不思議なことがありました。

 

その日の早朝から父は危篤状態だったのですが、私が病院に駆けつけて少し経つと、父の容体は安定したのです。

もう少し持ちこたえてくれそうだと思った私は、散歩に出ました。

一日24時間、つきっきりというのも疲れますし、精神衛生上よくありません。

 

私は病院から少し離れたところまでてくてく歩いていました。

その日は残暑が厳しく、朝から陽が照りつけていました。

 

私は残暑を楽しみ、去り行く夏を名残惜しく思いながら散歩をしていたのですが、その時風向きが急に変わったのです。

風向きだけではなく、風の手ごたえも変わりました。

 

そよ風のような優しい風は急に冷たい強風に変わったのです。

雨も降ってきそうだったので、私は急いで父が入院している病院に戻りました。

スマホはない時代だったので、父の急変を知らせてくれるものはなかったのです。

 

私が急いで父の病室に戻ると、持ち直していた父は瀕死になっていました。

担当医や看護師さんが病室に入ってきてすぐに父は死んでしまいました。

 

私はその時思ったのです。

散歩中、急に風向きが変わり、冷たくなったのは父が私を呼んでいたのだと思ったのです。

 

人が死ぬ時、天気までもが変わるのかと不思議な気持ちになりました。

暖かい風は冷たい風に変わり、そよ風は突風になる。

 

人間も自然の一部ですから、その生死は季節の移り変わりそのものです。

風の色が変わる時、季節が移り変わり、一人の人間の一生が終わる。

 

毎年、夏の終わりになり、風の匂い、風の色合いが変わる時、父が死んだあの夏の日を思い出します。

 

これから夏から秋、秋から冬へと季節が移っていく時、風の色は季節ごとの色に変わっていくことでしょう。

 

季節の変わり目の雨の後、空気の匂いは変わります。

風の色も変わります。

 

風の色は見えないようでいて、見えるものですよね。

風の色を感じ、楽しめる目はなくしてはならないのです。

 

この世は数字と科学だけではなく、人間が持つ感覚にも支配されるものなのです。